Funny-Creative BLOG

電子書籍作家の幾谷正が個人出版の最前線で戦う話

コミケの創作文芸サークルで電子書籍を販売してみました

オタクもオタクじゃない人も名前だけなら知っている。東京ビッグサイトで行われるという、巷で話題の夏の陣。
というわけで先日開催されたコミックマーケット90に、電子書籍サークルである当「FunnyCreative」も初の実媒体イベントとして参加してきました。

funny-creative.hatenablog.com

今回はDLコード付カードを使って「電子書籍を実イベントで売る」という、あまり見たことのない未知の試みに挑戦してみたわけですが、思った以上に気付かされることが多くありました。
同様の試みされてる方はチラホラとお見かけしますが、「紙と比較してどうか」という点について、自分はそれなりに確かな見識をもって述べることができると思います。

実は僕個人としては、学生時代に大学の漫研サークルとして参加して合同誌に寄稿したり、個人でも小説本を1冊作ってみたりと、サークル参加の経験は多かったりします。
また、一般参加(俗に言う買い専)としては連続20回、大学一回生の頃から十年ほぼ欠かさず夏冬参加しているので、コミケ自体についてはベテランかなと自負しています。

なので実はかなりコミケガチ勢だったりする自分が、「電子書籍コミケで売るってアリなのナシなの?」という観点について、私見を色々と書いてみたいと思います。

利点について

とにもかくにも印刷費が安い

今回自分が頒布した電子書籍のデータは、現在AmazonのKindleDirectPublishingを利用して2巻まで販売している拙作『アーマードール・アライブ』。

アーマードール・アライブⅠ: 死せる英雄と虚飾の悪魔

この最新第3巻をイベントで先行販売する、という体でプレリリース版として配布した形です。

作品概要としては

EPUBデータ本体約5,000KB
文字数ではおよそ10万文字
文庫に換算して約250頁程度
表紙はフルカラー
印刷部数は50部

これが僕が今回販売した作品の、数字上での仕様です。
仮にこれを紙に印刷して文庫として販売した場合、どんな感じになるでしょうか。
ためしに同人誌印刷所の大手、「ねこのしっぽ」さんでペーパーバックとして印刷した場合の値段を調べてみました。

f:id:funny-creative:20160820033304j:plain

この料金表を見る限り、およそ6万円程度。
つまり60,000÷50=¥1,200というのが、この本1冊あたりの数字になります。
もちろん同人活動は趣味なので、利益を求めず印刷原価をそのまま頒布価格としたいところですが、それでも1,200円というちょっとしたハードカバーみたいな値段になってしまいます。

「なんでそんなに高いの!?」と驚かれる方もいらっしゃるかも知れませんが、よく考えると実は当然のことなのです。


まず商業作品として流通している出版社の出している本は、一度に何千部という数を刷ることで1冊あたりの値段を安くしています。
なので少部数しか刷らない同人誌としての印刷は、かなり1冊あたりの値段が高額になってしまいます。

また、一般的に同人誌と言われるものは、多くの作品が漫画本の形態を取っています。
平均的に1冊およそ24~32ページ程度、これを100部ほど刷って500円で売れば、充分元が取れるどころかむしろ利益が入ります。
「同人誌は1冊500円」「商業媒体だとライトノベルは高くても800円」という二つの先入観が、「同人小説1冊1,200円」という価格を突拍子もなく高く感じさせてしまうのかもしれません。

このどうしても1冊あたりのページ数が多くなってしまいやすい同人文芸特有の問題は、かなり多くのサークルの頭を悩ませてきました。
もちろん、全て売り切ってやっと差し引きゼロになるという話。一度のイベントで売り切れなければ、当然それだけの赤字を持ち越すことになります。
また、イベント参加費と交通費、在庫の運送費も毎回かかることになるので、売れ残るほどにマイナスがかさんでいきます。

僕自身もお金に余裕のない大学時代の頃に同人小説を作っていたので、商業作家として稼いだ印税を同人活動で散財するという、かなり道楽じみた活動をしていたと思います。
(今思えばかなり良い経験になったなと思いはするものの)

大して今回、僕が「CONCA」と「でんでんコンバーター」を利用して作成したEPUBデータとDLコード付カードについて。

まず当ブログでも何度かご紹介させていただいてる、毎度お世話になっている「でんでんコンバーター」ですが、フリーのWEBサービスなのでここでのEPUB作成経費は0円。
そして今回初めて利用した「conca」ですが、DLコード付のカードを指定枚数印刷して、固有のコードを枚数分生成してくれるという、かなり便利なパッケージになっています。
カード厚さ0.5mm、50枚でデータ3種類までのコースで注文したので、ここでの経費は大体税込みで1,5000円ぐらいでした。

f:id:funny-creative:20160820041304j:plain
(こんな感じのプラスチックカード。実物を手にしてみるとかなりしっかりした造りで、グッズとして作っても満足感ある)

1,5000÷50=300円と見れば、ほぼ1冊300円で作成できてしまった計算になります。
もちろんこれはページ数に全く依存しない数字なので、10ページだろうと1000ページだろうと同じぐらいの値段になります。
少なくとも僕の場合、実に900円も安く作成できたことになります。

これはサークル側にとって有り難い話ですが、もちろん安く作成できる分、頒布価格もそれだけ安くすることが可能です。
200ページ10万文字の文庫本を300円で読めるだなんて、活字好きにとって決して損な話ではないはずだと僕は思ってます。

会場内入稿すら可能とする作成の便利さ

次に、同人誌の作成時間と締め切りの話です。
紙印刷を行う際には、当然印刷所側が提示した締め切りに間に合うよう、原稿データを万全に用意して入稿しなければなりません。
また、入稿済みのデータにあとで不備が見つかった場合、データを差替えて修正するという融通もなかなか難しい所があります。

一つ直前入稿の手段として有名なものに「コピー誌折本」というものがあります。
原稿を普通のコピー機でコピーして、折りたたんでホチキスで止めて本にしてしまうという代物です。
これなら機材さえあれば誰でも簡単に安く作るので、時間がないサークルには有効な手段として扱われていますが、実はそう簡単なものでもありません。

人の手を使っての作業になるので当然限界はありますし、ページ番号の間違いミスなどの危険性も伴います。
とにかく根気と労力の作業になるので、冊数に制限こそないものの、50冊作るだけでもかなりの苦行になるでしょう。
もちろん、数百ページに及ぶ小説本でこの手段を取るのは、とても現実的とはいえません。

ですが今回自分は、東京での滞在先のホテルにノートPCを持ち込んで、イベント前日のギリギリまで粘って原稿作業を行うことができました。

これも電子書籍の利点で、要は「イベント当日までにサーバー上にDL用のデータを上げておけばいい」だけなので、極論を言えば当日会場内でデータをアップロードしてしまってもいいわけです。
もちろんカード自体の印刷に時間を要するので、2週間ほど前に表紙のイラストだけでも完成させておいて、先に印刷の手配だけしておく必要はあります。
ですがそこから2週間ほど本文の作業に入る余裕が残されているわけなので、忙しい社会人サークルなどにとってはこれほど助かる話もないでしょう。
なのでイラストレーターの友人に対して自分も「表紙さえ2週間前に上げてもらえればあとはこっちでなんとかする」と、かなり強気なスケジュールで進めていました。

印刷所依頼にしろコピー誌にしろ、ギリギリになればなるほど誰かが苦しむことになるのは必定なので、その辺りについても人に優しい形式と言えると思います。

もちろん、時間があるからと直前まで作業を先延ばしにしてしまい、かえって余裕がなくなってしまえばかえって欠点かも知れませんがw

小さいことはいいことだ

ここまでは作る前から利点だと感じていた部分ですが、これは作ってみて初めて感じた利点でした。
同人誌を作る際に必ずつきまとう問題に、本自体の在庫の扱いに関するものがあります。
毎回イベントの度に重たい段ボールを用意して、カートに積み込んで会場内まで運び込む必要があります。
また売れ残れば安くない運送費を払って家まで郵送し、部屋のスペースをいつまでも専有し続けることになります。

また、ブースを何かの理由で空けなければいけない際など、大事な本を持ち歩くことなどできるわけもないので、店番を人に頼むとか近くのサークルに見張りをお願いするとか、色々と対策が必要になってきます。

ところが今回作ったDLカードは、言ってしまえば数十枚のプラスチックカード。ちょっと厚めのカードデッキ1パック分ぐらいの容量です。
搬入も搬出も、ケースに入れて鞄に入れておくだけで簡単お手軽。ブースを離席する際も同様です。

欠点について

EPUBデータの開き方

今回もっとも自分の頭を悩ませたのは、「どうやってEPUBデータを読んでもらうか」という点についてでした。
まだ充分浸透していないEPUBのフォーマットですが、それが安定して開けるリーダーや閲覧環境もまだ未整備の状態にあります。
これが単なるjpgやpdfなら説明ナシでも済むところですが、epubの場合は「どのソフトをどう使えば開けるか」から説明する必要があります。

とりあえずWEB上でepubの閲覧可能なソフトやその使い方紹介について調べ、〝READ MEテキスト〟を用意することでこの対策としました。
今のところ「開き方が分からない」という問い合わせは頂いておらず、読了報告もいくつか頂けており、問題がなかったようでホッとしています。

ですが自分の場合は、元々電子を主体に活動していたサークルという前提があるので、購入していただいた方々もやはり元々理解のある方がほとんどです。
既に閲覧環境を導入済みの方も多かったことと思われます。

なので、「今まで紙主体で活動してきたサークルが電子媒体に移行する」場合、その読者が以降に対応できるかどうかは大きく問題になるでしょう。

会場での展示の仕方

これは完全に今回失敗したなと思ったのは、とにかく「何を売っているのかわかりにくい」という一点でした。

とりあえず作品のデータをあらかじめ入れた電子書籍端末を試読サンプルとして横に置き、カードを並べて頒布用ディスプレイを作ったのですが、これがとにかくわかりにくい。

「これは何を売っているのか」と、逆に興味を持って尋ねてこられる方もいたのですが、紙書籍がずらりと並ぶ一帯で、カードと端末だけを並べている自分のブースは、正直かなり浮いていました。

一応あとで聞いてみたところ、concaを作品販売に利用しているサークルは他にもいくつかあったと聞いています。
ですがそれは、元々データ形式のものを販売している同人ゲームジャンルで活動しているサークルの話で、文芸ジャンルではおそらく僕一人だったのではないかと思われます。

もっとも、電子書籍の利用人口が今後増えていけば、この辺りの問題は自然と解決されていくのかも知れません。

DLコードの使用期限

これはCONCAにおける唯一の欠点らしい欠点ですが、実はDLコードは無期限ではなく1年間という利用可能期限が設けられています。
カードに印刷されているコード自体が1年で使えなくなってしまうので、1年後にはただのカードになってしまうというわけです。
(グッズとしてみればまだ利用価値は何かしらあるかも知れませんが)

なので毎年毎年既刊を何度もイベントに持ち込むという使い方はできず、その1年以内に刷った枚数を売り切る必要があります。

もっともこの点に関しては「売り切るつもりで作っていない作品は何度イベントに参加したところで売り切れない」という僕なりの持論があるので、あまり欠点ではないかも知れません。
確実に売り切れる枚数を見据えて、売り切れる分だけ作る。そういう勘みたいなものが、養われているか否か次第と言えるでしょう。

総評として

  • とにかく今回一番の収穫だったのは、WEB上で活動しているだけでは届かない、実イベントで同人小説を嗜んでいる方々に、「こういう活動をしている人間がいる」というアピール行う機会を得られたことでした。

 もともと続き物の途中巻を売るという企画だったので、既存読者以外に売ることはあまり意識していなかったのですが、会場で興味を持って頂いた方にKindleで販売している既刊の存在をお伝えする営業の機会になったのは嬉しい誤算です。

  • 利点と欠点について、まとめて言ってしまえば「利点はサークル側が助かること」「欠点は買う側が理解していないこと」のとにかく二つだけだと思います。

 買って頂ける側に、サークル側を助けると思ってこの取り組みへの理解を求めていくことが、今後の大きな課題でしょう。
 それが進めば、創作文芸というジャンル全体が今以上に盛り上がっていくのではないかという一抹の期待もあります。

  • 短期的に見てこの取り組みが何かの得になるかといえば、ぶっちゃけてしまうと特にはありません。一万円ちょっとの出費で趣味的に出来ることとしては、かなり楽しい部類であったことだけでは確かです。

 同じ事をするのに今まで5万とか6万とか掛かっていたことに比べれば、という話ですが。
 電子書籍で既に充分儲かっているので、実媒体で同じように儲けようという気が起きないだけなのですが。

  • 僕がこの試みに期待していることは、今まで紙媒体で活動してきた創作文芸関係の読者と作者たちが、電子書籍という舞台の存在に気付き興味を持ってくれることです。

 人が増えれば物が増え、物が増えれば人が増えるというのが市場の鉄則です。電子媒体そのものに顧客が増えれば、僕の本が売れる確率も今以上に増えるので、その点については利するところがあると言えるでしょう。

  • プロになりたいというほど情熱があるわけでもなく、かといって手間と時間とお金をかけて同人小説を続けて行くのも限界を感じている。

 そういった、ある意味〝海とも山ともつかない〟立ち位置に居るアマチュアの皆さんにとって、電子媒体というのはとても居心地の良い環境だと自分は思っています。

  • 電子書籍で一万円の利益を出すのは、そう難しくはなく簡単な部類の問題です。

 しかし一万円を使ってどうすれば読者を増やすことができるかは、かなり難しい問題です。
 ここの不可逆性を同解決していくかが、電子書籍に取り組むうえでの大きな問題だと僕は感じています。

二次創作はどうして合法にはならないのか

ちかごろtwitterで二次創作の規制に関する議論が、当の同人作者そっちのけで毎日過熱しているが、僕も一次創作やってる人間としてちょくちょく首を突っ込んで要らんことをよく言っている。

その中でふと気付いたのだが、「公式は二次創作の存在を黙認している」「法的には違法だがただちに損害を与えるものではない」というのが、容認派がよく口にする言葉だ。

考えてみればおかしな話で、どうして「問題がないものを著作権は違法としているのか」という疑問が沸き立ってくる。

二次創作を禁止する法律を著作権からなくして、誰でも自由に二次創作ができるようにすれば、問題も最初から起こらない。

どうしてそうならないのか、そうすべきではないのか、という視点から二次創作にまつわる話を個人的に調べてまとめてみた。

キャラクターの使用権利について

まず「二次創作が違法として裁判沙汰になった事例はない」という勘違いがよく見られるので、先に整理しておく。

今から60年まえとかなり古いが、バス会社が作者に無許可でキャラクターの絵を観光バスにプリントして運行を行った『サザエさんバス事件』がよく話題にあがる事例だ。
作者である長谷川町子氏は勝訴し、損害賠償もきちんと受け取っている。

サザエさんバス事件 - Wikipedia

ネットでは「ディズニーに手を出すのは危険だ」なんて都市伝説が流行っているが、実は日本の国民的アニメであるサザエさんの方がむしろヤバかったりする。
作者である長谷川町子先生は既に没されているが、作品の著作権は財団法人長谷川町子美術館に移され現在も管理されているため、死んだ人の作品だから今は何やってもいいというわけでもない。

あれだけやりたい放題だった『おそ松さん』もちゃんとフジオプロ公認だしな!

また、ポパイというキャラクターを勝手にネクタイにプリントして販売し、最高裁まで争った『ポパイネクタイ事件』がキャラクター保護を取り巻く事件としては有名だ。

「ポパイ」著作権侵害第3事件

実は著作権法上、「キャラクターそのもの」は著作物として保護されていない。
あくまで保護されるのは漫画や小説などの作品であり、キャラクターはその中に存在するイメージや表現という付随物だ。

だがこの事件では、「〝水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえ、腕にはいかりを描いた姿の船乗り〟は誰が見てもポパイだし、特定のコマのトレスじゃないけど無断複製あつかい」という判決がくだされている。

もちろんこれらの事件は被害者側が訴えを出したことによって、事件へと発展してしまったに過ぎない。
だが、「キャラクターの無断使用は公式側が本気で訴えたら負ける」というのは、噂や都市伝説でもなく判例に基づいた事実なのだろう。

なぜ無断使用が禁じられているのか

そもそも法律というものは、ないよりあった方がいい。
モノを盗むことが罪に問われない社会と、罪に問われる社会。どちらが経済的に発展し豊かになるか、というごく単純な話だ。

著作権に関しても同じ事が言えて、「なぜ無断使用が禁じられているか」と言えば、「公式側の利益にならないから」だ。

許可された副次創作物は公式に版権料を納めているため、コミカライズなどの副次創作物によって得られた利益は、公式側に還元される。
その利益はコンテンツが稼いだ総額に計上されるし、キャラクターデザインなど原作に携わったクリエイターに様々な形で取り込まれる。

「○○先生のキャラクターデザインが素晴らしいので同人誌出します!」なんていう同人作家の態度は、ハッキリ言って「あなたのものが欲しいから盗みます」という広言以外の何物でも無い。

たとえば最近では、二次創作を行っている作家に公式側が声をかけて、いわゆる公式アンソロジーという出版物を出すこともある。
そのおかげか、無許諾アニパロの書店販売も最近では滅多に見かけなくなった(代わりに大型書店が同人アンソロを置くようになっただけなのだが)

anond.hatelabo.jp

一部の出版社に限られるが、公式側は二次創作を〝黙認〟ではなく、むしろスカウトの場という〝容認〟のスタンスを取っているし、僕自身も取るべきだと思っている。

ちなみに、同人誌の大部分を占めると言われる「二次創作エロ」に関しては、問題の根ざすところがまた違って見える。

たとえば昔、人気アイドルの顔写真を、グラビアアイドルの体に貼り付けて、エロイ格好をしたアイドルの写真を捏造する「アイコラ」なんて文化があった(今もあるのかな?)
アイドルという実在の人物は肖像権で守られているので、「人の写真をオモチャにするな」と言えば即御用だが、先にも述べたようにキャラクターの人格は著作権で保護されていない。

アイコラや二次エロの問題点は、アイドルという事務所が持つ商材のイメージを損ない商品価値を下げる、業務妨害という問題点を持つものと思われる。

二次創作を合法にすることの問題

二次創作の違法性を認める法律は、大きく言って以下の二つがある。

1.明らかなキャラクターの複製を禁ずる複製権
2.著作物の改編切除を禁止する同一性保持権

「各々の二次創作がこれらに違反しているか否か」を論じる前に、まず「これらを違反とする意義について」を根本的に考えてみたいと思う。

1つ目の勝手な複製が禁じられているのは、当たり前の話で、「著作によって得られる権利者の利益を損ねる」からだ。
複製権が保護されなくなれば、例えば何が起きるか。

わざわざ個々のクリエイターに対して「代金を払って何かを制作させる」必要がなくなり、既存のものを勝手に使用すればことが足りてしまう。
儲かるキャラクターを各々で利用すればよく、新たなキャラクターを産み出す必要がなくなってしまうのだ。
当然、作品を作りだすクリエイター側も、仕事量が安くなるし勝手な無断転載を咎める根拠を失ってしまう。

しかし商業作品において、作品の著作権を作者本人が持っている保証はない

例えば漫画家がある出版社からコミックを出した場合、出版社と作品の著作権に関する契約書を結ぶのだが、ここで複製権などの権利は契約書上で出版社に委譲されるケースが多い。
それを行わなければ、キャラクターグッズや増刷を行うたびに、いちいち作者に許諾を取らなければ出版社が違法となってしまうからだ。

なのでどれだけ作品の著作権が侵害されていたとしても、作品の著作権を委譲されている出版社が動かない限り、作者本人は被害者として訴えることすら法律上不可能となる。
複製権の侵害によって不利益を被るのは出版社自身も同じだが、被害の規模が小さいからとわざわざ取り締まりを行わず黙認してしまっている。

出版社が守るべき権利の保護を放棄しているのは、単に作家の保護を体よくサボっているだけにも自分には映る。

2つ目の同一性保持権は、Wikipediaの記述を丸呑みすれば〝著作者の意に沿わない表現が施されることによる精神的苦痛から救済するため〟とされている。

同一性保持権は譲渡不可能な著作人格権に属する権利のため、書類上出版社が権利を有している作品であっても、作者不朽の権利として行使することが可能だ。

ファンがある同人誌に対して〝○○はこんなこと言わない!〟とケンカしている限りにおいて問題はないが、作者本人がもし二次創作に対して同じように思い一緒になって〝俺の○○はこんなこと言わない!〟と言ってしまったら大問題だ。
同一性保持権の侵害としてきちんと立件できてしまう。

作者が個人作家に対してこれを行ったという凡例は今の所ないが、ゲームに対して〝攻略ヒロインを勝手にデレやすくする〟という罪状で訴えられた『ときメモ事件』が有名である(ちょっと嘘を言ってます)
また、『ドラえもん最終話問題』も、実際の立件までは至らなかったが、仮に裁判沙汰になっていればこれを根拠に有罪とされていた可能性が示唆されている。

ドラえもん最終話同人誌問題 - Wikipedia


これは類似の翻案権が財産的利益を保護するものに対し、あくまで「作品を勝手にねじ曲げられたくない」という人格的利益を保護するための権利である。

pixivなどの界隈でも、他人のオリジナルキャラクタを借りるとき、「そちらの子ちょっと借りますね」と作者にお願いしてから描くのが礼儀になっているし、それを怠れば歴とした違法行為だ。

全ての創作者が尊重し、尊重されるべき権利であるにも関わらず、商業作家の作品は公共物だから権利を守らなくても良いと同人作家が当然のように認識しているのは、やや不気味に感じられる。

もし創作仲間の友人がある日プロの作家になったとき、その人のオリジナルキャラを借りるとき、同人時代と同じようにちゃんと許可を取るだろうか。
それとも他の商業作品と同じように無断でキャラを借用することが許せるのだろうか。

二次創作に被害者はいない

自分のような作品のファンには、副次創作物の購入に際して二つの選択肢がある。

一つは公式に許諾されていて、正当に許諾されて一次創作者に利益が還元されるオフィシャルなコミカライズやノベライズ作品。

もう一つは、ファンが公式に許諾を受けず自由な発想と創作性で産み出した、違法で無許諾な二次創作作品だ。

ぶっちゃけ僕はここ数年、前者を買った経験が一度も存在しない。
後者の方が面白くて見応えもあるし、種類も豊富なので自分の好みにあったものも見つけやすい。
版権元が儲かろうと儲かるまいと、二次創作の方が面白くて魅力的だから、コミカライズを買うという選択肢がそもそも存在しないのだ。

また、世のキャラクターグッズの多くは公式に版権料を納める必要があるため、商品そのものの製造コストへ更に権利料が上乗せされて若干高く値段が設定されている。
そういった文脈を無視して、公式に権利料を納める必要の無い非公式グッズが、公式グッズと同等か安価な価格で販売することは、明らかな不正競争だろう。

昨今、漫画アニメの市場規模縮小や人材不足が叫ばれ、アニメーターの低賃金問題や作家の原稿料の安さがネットのあちこちで問題になっている。
だが景気の悪い話ばかりでもない。
ニュースサイトの記事によると、同人市場の市場規模は、757億円の巨大市場でなおも増益を続けているという。

矢野経済 2014年の「同人誌市場規模」3.4%増 | ニュープリネット

この全てが二次創作というわけでもないだろうが、かなりの分率を含んでいるのは事実だろう。

本来公式の人間達が受け取るべきだった利益を、不当に奪っているという自覚を、二次創作を行う全ての同人作家は自覚すべきだと思う。

「二次創作は儲かるものじゃない」とは言うが、だからといって「一次創作は儲かっている」なんてわけでもない。

公式側の人間が行っているのは〝黙認〟ではなく無法状態の放置だ。
原作コンテンツに関わる人間として〝容認〟するか、自社のコンテンツに不正な競争を強いる競合市場として〝否認〟するか、きちんとした態度を取るべきだと愚考する。

「not for you ーお前のためじゃねえよー」

高校のころ。
僕は授業中、ノートの端っこやレジュメの裏に落書きをするのが好きだった。
描いているのは昨日見たアニメに出てきたロボットとか、買ったプラモを模写して練習したロボットとか、とにかくまあロボットばかり描いてた。
こなれてくると、たまにちょっとオリジナル要素を付け足して「オリジナルMS」とか「オリジナルオーラバトラー」とか「オリジナルガイメレフ」とか描いてた。

意外と描きながらでも授業はちゃんと聞けてるもので、というか、描いて手を動かしてないと眠かった。
寝ないための事前策として描いていたようなものだ。
でも教師からの心象はやはり悪いようで、あるとき描いている絵に目を付けた教師が、その紙を取り上げて注意をした。
そしてなんと、見せしめにと教室の掲示板にその絵を貼り付けたまま授業を続行したのだ。

「意外と上手い」と一部の同級生にはほめられたが、やっぱり大半の同級生たちには笑われた。
そりゃまあ、描いたからには人に見て欲しい。それが絵という物だ。でも別に、見せたく無い人間に笑われるために描いたわけではない。

「見て欲しくて描いたんだろ。見せてみろ。笑ってやる」

そういうスタンスの人間は、教室という狭い社会の中にもいるし、この広い社会の中にも限りなく居る。
そういった輩に、僕は、こう心の中で言い返すことにしている。

「確かに見て欲しい。でもそれはお前じゃない。お前の為には描いてない」

続きを読む

続・電子書籍の校閲編集作業にGitを利用してみる試み

前回:funny-creative.hatenablog.com

先日、「電子書籍の編集作業をgitでやってみよう」という思いつきの試みをぶちあげてみたところエンジニアサイドの方々から様々な反応を頂いてしまいました。

僕みたいな「htmlとcssは打てるけどjavaphpはからっきし」な非エンジニアには恐れ多くて萎縮してしまいそうです(していない)

協力して頂ける方の募集を行ってみたところ、業務で分散管理のなんたるかを身につけておられるエンジニアの知り合いの方にコミットしていただくことができました。

f:id:funny-creative:20160110072216j:plain

おかげさまで、編集規約や作業手順、ブランチの運用など、大まかなシステムの枠組みはひとまず確定してきています。

ただ、文章を読んだり修正してくれる肝心の作業人員が確保できない、というよくある炎上パターンに突入しかかってます。
「下読みだけなら手伝えるけど、原稿に手を出すとか、使ったことないシステムに手を出すのはちょっと・・・」という障壁が、たぶん一番分厚い問題です。

  • 「俺も手伝うから代わりに手伝ってほしい」という電子書籍界隈の方
  • 「スペルミスや誤字脱字を見つけたくて仕方無い」という校閲マン
  • 「本をいちはやく世に出すための手伝いがしたい」という有り難い読者の方
  • etc

などなど、参加申し出ていただけたら嬉しいです。
クライアントの導入方法から使用方法まで、こちらでサポートさせていただくので、何の前知識も無くて大丈夫です。
(というか前知識がないと使えないシステムを作り上げてもしゃーないので)

続きを読む

電子書籍の校閲編集作業にGitを利用してみる試み

先日、『アーマードール・アライブ』2巻の発売日を正式に発表させていただきました。

【お知らせ】『アーマードール・アライブ』2巻についてのお知らせ - Funny-Creative


記事内でも記載したとおり、まだ校閲や改稿など、編集作業が山積みを粛々と進めている最中です。
知人に下読みしてもらって矛盾点や改良点を洗い出したり、誤字脱字の山をひたすら切り崩したりと一人では大変な作業続いています。

下読みについては直接epubやテキストを送っても手伝ってもらえるんですが、細かい誤脱の修正やマークアップについては、どうしても口頭でフィードバックして解決しなければいけない状態です。
特に誤脱の指摘については、「○○ページ目の○行目に誤字があったよ」と教えてもらっても、リフローなEPUB形式のため追跡作業に難航してしまいます。

できれば直接原稿ファイルに手を入れて手伝ってもらいたいけど、複数人で1つのファイルをいじるのは難しいです。
と今までは思ってたんですが、業務で1つのコードを集団開発するエンジニアさんたちは、分散型管理システムとかいうのを使ってその問題を解決していると小耳に挟みました。

考えてみれば電子書籍って結局、xmlcssなんだし、「小説」として扱うよりは1つの「言語」として扱った方が自然な気もします。

というわけで今回、編集作業をGitプロジェクトとして行ってみることにしました。

ホスティングについては無料で非公開リポジトリが作成できるBitBucketを選択しました。
公式クライアントのSourceTreeがGUI操作できるので、使い慣れてない方に協力してもらいやすそうなので。

プロジェクトページのキャプチャは、現在こんな感じです。

f:id:funny-creative:20160104030143j:plain

現状、比較的この手の技術に明るい知人に当たってコミットしてもらってる状況です。

“本文の下読み”や“誤脱の指摘”まではお願いできても、“gitでコミットして”となると中々手を上げてくれる人が見つからないわけで・・・。

もしこのエントリーを見てくれている方の中で、面識があり、手伝っていただける方いたら教えてください。
twitterのリプでもブログのコンタクトフォームでも何でも大丈夫です。

実は恥ずかしながら僕自身、自分から始めてみたものの、Gitの扱いについて把握しきれていない部分がけっこう多くて苦戦しています。
「小説のことは自信ないけどGitなら任せろ」みたいな方に手を貸してもらえるとかなり心強いかなという心境。

僕は電子書籍の「紙という実体を持たない出版」という利点を、どこまで活かせるか活動の中で追求してみたいと考えてます。
なので「編集室という実体」もまた、電子化出来たら面白くはないかな、と思って今回実践してみることにしました。
商業活動時代は一応、ゲラとアカを使った校閲作業は経験しているので、それと同じ事を電子的にやってみるというのがまずは第一目標です。

もしかしたら思いも寄らない障害にぶち上がるかもしれませんし、Gitほど高機能でなくても充分なのかもしれません。
SubVersionでも充分じゃないかな、とは既に思ってるところなので)

ちなみにセルフパブリッシングの最大手、群雛文庫さんの方では編集作業にはGoogleドキュメントを採用されてるそうです。

www.gunsu.jp

なんでGoogleドキュメント同じように使わないのかと言うと、せっかく独立してやるからには、人と違うことをやった方が面白いかなと思ってるだけです。
当サークルの活動指針は「たのしいことがしたいだけ」なので。

他にも話聞いてみるところ、みなさん色んなかたちで編集作業のやり方を模索しているみたいです。
マージ失敗して大炎上するか、思いも寄らない福次効果を見つけられるか、まだ分かりませんが、この観測点から見える景色をセルフパブリッシング界隈にお届けできればなあとか考えてます。

(2016.01.06-追記)
さっそくお一人、Twitterで親交ある方から、参加の意思表明いただきました。
まだ3~4人分ぐらい登録枠に空きがあるので、物好きな方お待ちしています。

負けたところで失うものは何もない僕たちと『人造昆虫カブトボーグVxV』の話

世間では「カオスアニメの代名詞」として悪名高い『人造昆虫カブトボーグVxV』だが、実はけっこう趣深いエピソードも多数ある。

そもそもカブトボーグというアニメの世界観はそれほど狂っているわけではない。徹底したリアリティのもとに成り立っている。
主人公のリュウセイさんは腹の立つ相手が居れば叩き潰す、目的のためには手段を選ばない、常に最短距離で勝利をつかみにいく。

これがそこらのホビー向けアニメの主人公なら、「勝つためには何をしたっていいわけじゃない」と敵役を綺麗ごとで説得しているところだ。
だが、リュウセイさんは逆に、そんな説教に対して更に上からの説教を食らわせて怯んだ隙にぶちのめしたりする。
彼は少年向けホビーアニメという枷から解き放たれた、ナマの感情を発露するむき出しの人間性そのものなのだ。

続きを読む