Funny-Creative BLOG

電子書籍作家の幾谷正が個人出版の最前線で戦う話

二次創作を否定する立場の同人作家として喋りたかったこと。

みなさんがこのブログを読んでいるということは、僕はもう、この世に生き恥をさらしまくって社会的に死んだあとでしょう。

明けましておめでとうございます、幾谷正です。

実はご存知の方も多いと思いますが、あのAbema Primeに生放送で出演することが決まりました。
2020年1/6(月)に年明け1回目の放送で「二次創作の是非」という特集がありまして、そちらに同人作家の代表として意見を言わせていただく段取りです。

  • 2020.01.07追記

abema.tv

出演した動画はこちら。見逃し視聴も一週間ぐらいできるみたいです。

  • 追記ここまで

このエントリーは出演前の年末に書いていて、出演後に公開するつもりです。
実は出演にあたって色々と言いたいことは考えているんですが、時間の都合上、用意してきたことの半分も喋れないかもと思ってます。

そこで今回は、出演前の今の自分が考えている「喋りたいこと」を先にまとめておこうと思った次第です。
そしてこの記事が公開される出演後、視聴者の方々の中に「何が喋りたかったか」気になる方にご覧になっていただければと思ってます。

出演の経緯

「幾谷先生が公開しているブログを見て興味を持ちました。ぜひ生放送に出演してください」

こんな文面のメールが開設してるサイトの問い合わせフォームに届いたのは、年の瀬も迫った12月某日のことでした。

ちょうどそのとき、僕は生来の炎上癖でまたもや炎上を巻き起こしてしまった真っ最中で、Twitterに毎日のようにクソリプが届いてて心が荒れ果てたメキシコの荒野でした。
なので僕はメールを2回ほどじっくり読んでから「最近のイタズラは手が込んでるなあ」と即座に偽物とだと決めつけて無視することにしたのです。
ただ、「万が一本物の可能性もあるかも」と思い、「名刺を写真で取って添付して送ってくれ」と返信してみたところ、数十分後に〝明らかに本物と分かる名刺の写真〟がメール添付で届き、そのときようやく「あ、これマジの話だ」と気がついて真面目に対応することにした次第です。

話を伺ってみたところ、年明けに放映する番組の企画で「コミケに関連づけて二次創作の賛否を巡る議論を放映したい」というテーマで、その出演者を探していたそうです。
もちろん賛成を表明している方は今日多く見かけますし、山田太郎議員とか田中圭一先生とか、業界でも知られたビッグネームが既に呼ばれている形です。

ただ賛否を議論してもらいたいのに、〝二次創作に否定的な立場〟の著名人が驚いたことに、1人も見つからなかったそうです(この理由については後述)
そこでネットで色々と検索していた際、過去に僕が書いたこのブログのエントリーが目に留まり、二次創作否定派の代表としてお呼びがかかったという経緯でした。

funny-creative.hatenablog.com

なんというか、世間では僕みたいな人間のことを〝逆張り〟だとか〝あまのじゃく〟だの言うみたいですが、きちんとした姿勢でやり抜けば、結果がついてきちゃうという良い例ですね。
実際僕がライトノベルの新人賞で受賞したのも、「ラノベであえて王道硬派なロボットモノを書く」みたいな奇策が成功したような面もありますし、僕のポリシーみたいなものかもしれません。

ちなみに「僕だけ場違いすぎないか」と聞いて見たところ、「最初は編集の鳥嶋和彦さんに出演を依頼していたけど、スケジュールの都合が合わなかったので2番目の候補が幾谷先生」というお話でした。
(過去の記事でも紹介したのですが、鳥嶋和彦さんは過去にコミケについて厳しい意見を残して話題になりました)
なので事実関係だけ見れば、僕は鳥嶋和彦さんの代役というよくわかんない状況になってるわけですね。
もっと中間の人、誰かいたはずでしょ。

ただ、「どうして二次創作に否定的な立場の人間がこんなに少ないのか」ということ自体、そもそも疑問に感じました。
というのも、僕が否定的な発言を始めたのって商業作家としての活動をやめて同人作家になってからなんですが、その理由って〝怖い物がなくなった〟からなんですね。

実際、商業で仕事しているプロの作家でも、ライトノベルイラストレーターでも、商業の片手間で二次創作同人をやっているのは結構当たり前になってます。
なのでそういう「二次創作があって当たり前」という状況で、「二次創作ってしょせん著作権侵害で他人の作品をパクってるだけじゃん」って正論を言うの、とてもリスクなことなんですよね。
言い方を変えれば、二次創作をしている作家に嫌われたり恨まれることを怖がって、一次創作をしている人たちも否定意見を言えなくなってる状況だと思うんです。

もちろん鳥嶋和彦さんのような誰もが認める実績を持っている編集なら、そういった業界の空気に流されず「コミケに居る作家のほとんどは使えない」と本音を遠慮無く言うことができます。
他にも『銀河英雄伝説』や『アルスラーン戦記』で有名な田中芳樹先生が自作の二次創作について厳しい規約を設けているのも有名な話です。

どちらもいまさら同人作家たちに恨まれたところで地位の揺らぎようがない方達ですが、そういう意味では同人で好き勝手やってて出版の力関係に左右されてない僕も、恐れずに本音を言える立場の1人です。
現在商業で活躍されてる作家の中にも「本当はタダ乗りしてるだけの二次同人作家たちの振る舞いを良く思ってない」と本音では思いつつ、隠してる方も結構いるんじゃないかと思います。

そこで僕みたいな立場の人間が、恐れず本音を言ってみせることで、他の人も思っていることを言いやすくなればいいなというのが今回出演を決めた理由の一つでもあります。
まあ第一の理由は単に目立ちたいってだけなんですけどね。

二次創作で作家は育たない

今回出演にあたって色々と言いたいことはたくさんあるんですが、欲張っても全部言えることはないと思うので、「とりあえずこれだけは絶対に言っておきたい」という内容は二つほど絞って決めています。
その1つが、この「作家が育たない」という僕個人の主張です。

詳しくは過去の記事でも書いたのですが、「二次創作同人作家」という立場って「商業漫画家」に比べてあまりに有利で楽なんですね。

僕にも二次創作をやってる知り合いは実は何人か居るんですが、彼らとたまに話をすると「商業出版社から仕事のオファーが来た」という話は、間接的にも良く聞きます。
最初はスカウトに喜んで商業デビューしてみたものの、現実はかなり厳しいものがあります。

・締め切りは出版社の都合で決められるので副業だと厳しい。
・原作つきの場合は二次創作と違って公式から審査やチェックが入るから自由に書けない。
・しかも版権料を納める必要があるので本来の印税の半分以下になる。

と悪いことづくめで、結局「1回やってみて知名度は上がったけど、稼ぎとして効率が悪いから二度と仕事を受けたくない」という結論に至った作家の話を何度も聞きました。
そう言ってる僕自身、一次創作という立場ではありますが、「商業より同人の方が自由にできて楽」と思って同人作家として活動してるので、彼らの言い分はめちゃめちゃ最もだなと思うんですね。

そんな状況下で、今回の出演者のお一人である田中圭一先生が、以下のような発言をTwitterで残しているのを思い出しました

もし「二次創作は作家を育てる土壌になる」という俗説が真実だとすれば、これだけ二次創作をする人がたくさん増えているなら、商業漫画家だってもっと増えてないとおかしいですよね。
でも現実として、二次創作や同人という環境は「作家にならなくても一次創作をしなくても漫画が世の中に出せる」という、作家にならない理由を与える場として機能しています。

たとえば「アニメの仕事をしても食えないアニメーターが、稼ぐために二次同人を出してみたら、とても売れて儲かってしまって、同人活動にのめりこんでアニメの仕事をしなくなってしまった」という話も、僕の想像ですが、実際に起きててもおかしくないですよね。

これは僕の持論なのですが、出版社の編集は同人作家というものを〝クリエイター志望者〟だと勘違いしているんですね。
ですが実際には、彼らは独自の販路とビジネスを持って活動している立派な〝パブリッシャー〟、つまり商業出版社と競合する他社に過ぎないんです。
自分の販路もビジネスも持ってるパブリッシャーに、他社のパブリッシャーが「うちで本を出さない?」と誘っても、受けるメリットや旨味がないのは目に見えています。

同人作家を「立派に育ってくれれば俺たちの食い物になるはず」と家畜のように思い込んで、作品やキャラクターの利用権を無思慮に与えたところで、彼らは自分の肉を出版社に差し出してくれはしません。
結局、二次同人作家というのは他人でしかないですし、他人にただで食べ物を分け与えて太らせて、自分自身は痩せていってるのが出版を取り巻く現状であるように見えます。

そしてこれは僕の個人的な立場からの意見ですが、二次創作で活動している作家ばかりが注目され、人気を集めた結果、一次創作で頑張ろうとする人間の邪魔をすることにも繋がります。
僕はプライドや意地だけで一次創作をやってる人間ですが、もともと有名で人気な作品のキャラクターを利用した二次創作の方が、簡単にものが作れてたくさん売れるに決まってるとも思っています。

ただ、創作の技術において大切なのは「キャラクターや世界観を自分で考えて生み出すこと」だと考えていて、二次創作だけやっていても肝心の技術は育たないと思っているんですね。
実際、そうやって頑張ってきたおかげで、商業媒体からシナリオライターの仕事をもらえる機会にも恵まれていますし、そこで仕事をこなせているのもこれまで積み上げた技術があってこそだと思います。
ただ、誰も彼も僕みたいな志やプライドを持って創作をしているわけではないので、技術を磨くことを放棄したまま「一生二次創作だけして金を稼いでいればいい」と思う作家だって多いはずです。

「他人のことなんて気にするな」と外野がいうのは簡単ですが、作品を書いている僕たちも所詮人間なので、否応無く他人と自分を比べてしまいます。
pixivでイラストを描いてもオリジナルより版権キャラの方が多く見てもらえる。
同人ストアに苦労して作ったオリジナル作品を出してみたけど、自分の出したものより二次創作の方が売れている。
twitterでは一次創作の宣伝をしても誰も興味を持ってもらえないのに、二次創作ばかりRTやいいねを稼いでる。
そういった出来事の一つ一つが、毎日一次創作をするクリエイターの心を折っているんじゃないでしょうか。

そして売れてる作品のキャラやタイトルを上手く利用した作家が人気になって注目を集め、プロデビューしても、使い物にならないのは自明です。
創作に大切な〝キャラを生み出す〟という経験をしないできた素人同然の人間なんですから、当然上手くいきませんし、「やっぱり二次創作の方が楽だ」と挫折して同人作家に戻っていくだけです。

僕自身、過去に炎上したとき、二次創作しかしてないような同人作家から「あいつは作家として失格だ」と名指しで批判され、その作家の囲いが「そうだそうだ」とリプするのを目にして、とてつもない怒りと失望を抱いたことがありました。
(しかもその同人作家の出してるエロ同人が、僕の好きなアニメのキャラクターを陵辱するエロ同人だったので、ものすごくムカついたんですが)

僕は一次創作しかしたことないですが、立派に育って作家になれましたし、今も創作を続けながらクリエイターとして仕事をしてます。
二次創作なんてなくても今までたくさんの作家は育ってきましたし、二次創作を無くしたところで僕みたいな奴は勝手にちゃんと育つと思います。
むしろ僕にとって二次創作は、どちらかというと作家や一次創作をやめたくなる邪魔や障害でしかありませんでした。

今後二次同人ばかり増えたところで、それを「日本の誇る文化だ」と言って堂々と市場で流通させたり、海外に送り出すことってできるんでしょうか。
もしオリジナルを描く人間が日本から一人もいなくなり、中国や韓国のような国がどんどん力をつければ、日本が海外作品のコピーや海賊版を作るだけの立場に逆転することもあり得ます。

今回のAbema Primeの出演者の中に、二次同人に賛成の立場を示している山田太郎議員がいますが、その政策についても大いに疑問が残ります。
二次創作を奨励するのは、ただでさえ強い立場にある二次創作の立場をさらに強くして、逆に弱い立場にある一次創作の立場をさらに弱体化させる結果になるのではないでしょうか。
まるで大企業を優遇して中小企業を冷遇する、彼の所属政党の方針と似たものを感じてしまいます。
この点については、できれば直接会って一言聞いてみたいと思っています。

作家を育てるためにはどうすればいいか

あまり否定意見ばかり言っていても建設的ではないので、じゃあ「どうすれば作家が育つようになるか」を真面目に考えて見たいと思います。

結論からいうと【二次創作の電子販売の全面禁止】が、個人的に一番いい落とし所じゃないかなと思っています。

色々書いたんですが、全ては「二次創作がビジネス的に優位すぎる」という偏りによって、二次同人への作家流出に歯止めがかからなくなってると思うんですね。
このあたりを解決しようと思うと、やはり「二次創作は儲けにならない不利なものだ」という状況に、偏りを戻さないといけないわけです。

で、二次同人が現状めちゃめちゃ儲けやすくなっている理由の一つって、「電子販売の普及」がターニングポイントだと僕は思っています。
僕自身、一次創作作品を電子書籍で販売していますが、コストや印刷費のかからない電子販売って思ったより強力で、一次創作でもかなり簡単に儲けが出せてしまいます。
これが二次創作でも同じように利用できてしまうと、もう「非営利な同人活動」って言ってられないような金額の利益が出てしまうんですね。
実際、データを紐解いて見ても、「同人市場の規模は年々増えているが、電子販売が特に伸びている」という数字も出ています。

たとえばファン活動としての二次創作に「一般的な同人活動の範疇なら」と許可を出している出版社やゲーム会社でも、規約には「商業目的や営利目的では禁止」と書いていることがほとんどです。
では、コストがかからず莫大な利益が出せてしまう電子販売って、「一般的な同人活動の範疇」に入れていいんでしょうか、というのが僕の提議したい問題です。

  • 2020.01.09追記

多くの方からご指摘を受けたのですが、「二次創作のエロは電子ストアではそこまで売れてない」という指摘をいただきました。
ちょっと話が右往左往してわかりにくくて申し訳なかったんですが、ここで言ってるのは全年齢向けの二次創作の話ですね。

例えばDLsiteの全年齢向け作品でかなり売れている作品をランキングで調べて見たところ、二次創作だけで2000万円儲けてる同人作家が居たって話は以前の記事でも書いています。

また、有利というのは「キャラや設定を考えなくていい、宣伝が容易に済む」というトータルの効率を含めたうえでの話です。

  • 追記終わり

作品やキャラを守らなければファンも守られない

とりあえずこれだけは絶対に言っておきたい内容の、二つのうちのもう一つはファンの獲得についてです。

「二次創作はファンの獲得につながる」という俗説について、確かに作品の露出や知名度は増やしていると思います。
ですが薬も過ぎれば毒になるように、このファンの獲得という点についても最近は疑問が残ることが多いです。

今回の出演にあたり、ディレクターの方からこんな話を耳にしました。
「実は自分もある作品のキャラが好きだけど、そのキャラが二次創作で嫌な扱われ方をしている」と本音を漏らしていたのです。

簡単にいうとそのキャラというのは、二次創作では「暴力を振るわれる」ことが定番ネタになっていて、ひどい目にあったり暴力を振るわれる絵が一時期たくさん目に入ってきたそうです。
ディレクターさんは、そういう作品を見るたび「嫌だなあ」と思いながら、無視して非表示するなどして自衛していたそうです。

確かに今時のオタク界隈にありがちな話なんですが、考えて見ると、僕はこういうオタクのノリが嫌いで、オタク向けのアニメや漫画のコンテンツからどんどん距離を置くようになってきたなと気がつきました。

例えば僕なら、そういう気に入らない二次創作があれば、わざわざ公式のHPの問い合わせフォームに「こんなひどい同人誌を出してるやつがいるから取り締まってくれ!」って内容を送ると思います。
ただ、大抵の公式って「二次創作に対しては黙認する」ことが当たり前になってしまっていて、こうしたファンの切実な意見まで黙殺して無視することしかしないんです。

果たして公式サイドが求めているファンって、「キャラに暴力を振るう二次創作を楽しんでいる人たち」と、「その描写に傷ついているキャラクターを好きな人たち」の一体どちらなんでしょうか。

今回の出演にあたって、打ち合わせの際に「二次創作によって人気になった作品はたくさんある」といろんな例を上げてもらったんですが、個人的に、どれもこれも「それは本当に人気と言っていいのか」と首を傾げたくなるものばかりでした。
例えば『エルシャダイ』というゲームのPVがネタとして人気になって二次創作が盛り上がった事例なんてありますが、確かにあのムーブによって売り上げが伸びた部分はあると思います。
ただ、あの作品にスタッフとして関わった映像デザイナーや楽曲作家たちは、あんな扱われ方をしてほしくて作品を作ってたんでしょうか。
どれだけ数字で売れたと言われても、僕がゲーム会社の社員だったらバカバカしくて仕事やめたくなってたと思います。

全ての二次創作がそうだとは言いませんが、〝ファン〟という名目を盾にして、作品をバカにしたり茶化したり破壊したりするような二次創作ってとても多いですし、オタクってそういった作品の破壊に対して感覚が麻痺してしまっているような気がします。

アニメで可愛いキャラが出れば「エロ同人で犯されるのが見たい」としか感じなかったり、アニメで少しでも変わったシーンがあると「MADの素材にされているのが見たい」と反射的に考えてしまう。
ちょっと愛情の深いキャラがいれば「二次創作で変態じみたキャラに改変されてるのが見たい」と感じたり、生意気なキャラがいれば「腹パンしてやりたい」と言い出したり。
彼らはもはや作品を見ていませんし、壊して遊ぶ前提の材料としてしか作品を見られなくなっていると思います。

こういう破壊に歯止めがかからなくなった一因に、ニコニコ動画のような著作権侵害が野放図にされているプラットフォームの悪影響があると思ってるんですが、今回ちょうど出演者に株式会社ドワンゴ代表取締役社長である夏野剛さんがいるので、直接聞いて見ることができたらと思います。

話を戻しますが、結局こうした作品の破壊を前提とした二次創作の流行によって、たしかに作品の消費者は増えていますが、問題は「消費のされ方」の方にあると思います。
作品をエロ同人の素材やMAD動画の素材としてしか見ていない視聴者がいくら増えても、売れるのはエロ同人や動画の再生数ばかりで、クリエイターが見て欲しいものや届けたいものは何も届きませんし、遊ぶための場を提供する役割にしかならないと思います。

そして、そうした破壊に心を痛めているファンの方が少なくなり、肩身の狭い思いをするようになれば、最後には彼らは作品に愛情を持つことをやめてしまいます。
それは本来守られていてほしい作品のイメージやキャラクターが守られないことによって、ファンの方が傷つくことになるからです。

黙認といえば聞こえはいいですが、近年の公式サイドが行なっている二次創作への態度は、ただコンテンツを管理する責任を放棄して荒れるに任せて放置しているだけです。
「自分の作品のファンにはこうあってほしい」「こういう二次創作はしてほしくない」と口うるさく発信して、ファンを教育するのがIPを管理する立場の人間がやるべきことです。
「視聴者が楽しんでいるから」と、一緒になって作品の破壊に仲良く精を出した結果、壊されたくないファンもクリエイターもその作品に関わることをやめてしまうだけです。

かつて好きだった作品が、ソシャゲ化して、大量の同人作家がネタにし出して、キャラや作品をよく知りもしないくせに、安易なエロ同人のネタにして過去作のキャラが汚されて、古参のファンが心を痛めて失望して作品のファン自体をやめてしまう。
最近のオタク業界に起きているのはこんな出来事の繰り返しですし、僕自身、そうした繰り返しに疲弊してアニメや漫画を見ること自体が億劫になってしまった人間の一人です。

これは僕の作家としての経験から言えることですが、ファンをやめていく人間というのは、失望して去っていくので、何も言葉を残してくれません。
「キャラがこんな扱いをされるのがいやだからファンをやめます」と、わざわざ言い残してくれるならまだマシです。貴重な意見を残してくれれば、こちらも参考にして対応を考えることができます。
でも残念なことに、ほとんどのファンは、何が悪かったか教えてくれないで離れていきます。

「コンテンツは流行っているはずなのに、ファンがこちらの出すものにお金を出してくれない」と思っているなら、ファンの顔を一人一人見渡して見てください。
彼らが買っているのはそのコンテンツが陵辱されたエロ同人や、同性愛者に書き換えられたBL同人誌だけで、あなた達の出すものには見向きもしなくなっている。
エロ同人作家が描いたエロイラストは1万も2万もリツイートされる一方で、公式アカウントの発信するグッズや商品の情報は100とか200しかRTされない。
こんな状況
を「ファンが増えている」と喜べる神経が理解できませんし、僕はそういう文化が理解できないので、もう自分はオタクじゃないのかもしれません。

ファンを増やすためにはどうするべきか

結局、公式は公式としての役割をきちんと果たすしかないと僕は思っています。

たとえば初音ミクで有名なクリプトン・フューチャー・メディア株式会社では、キャラクター利用のガイドラインを下記のような内容で出しています。

piapro(ピアプロ)|キャラクター利用のガイドライン

ここでは明確に「ファン活動として二次創作してもいいけど、こういうことはしてはいけない」と明記されています。

特に僕が重要だと感じているのは、下記のNG項目の部分です。

当社が禁止している利用(絶対NG)
当社、当社製品または当社キャラクターのイメージを著しく損なう利用
利用する作品の著作者の社会的な評価を損なうような利用
公序良俗に反する利用
他者の権利を侵害する、または侵害のおそれがある利用
当社公式製品のような誤解を招く利用

ちょっと考えれば誰にでもわかる話ですが、キャラクターにエロいことをさせて陵辱するような同人誌って「当社、当社製品または当社キャラクターのイメージを著しく損なう利用」の項目そのものですよね。
なぜこんな項目をわざわざ書いておくのかって、「作品やキャラのイメージを大事にするファンを守りたいから」だと思います。

もちろん、ただ書いておくだけだと同人作家どもはどうせちゃんと規約を読まないので、無視して好き勝手にエロ同人を販売してしまうと思います。
ここで公式がとるべき行動は、ただ黙り込んで無責任に野放図にして荒れ果てるのを待つのではなく、「それは禁止だ」と口を挟んでやめさせることだと思います。

きちんとしつけや教育をせず放任して育てた子供がろくでもない子供に育つように、公式が自ら「こういうファンになってほしい」と行動を起こさなければ、ろくでもないファンしか残らないのは当たり前です。
ろくでもないファンしか育たないのは、コンテンツを管理している人たちがろくでもないからというだけです。

僕は今まで何度も、規約違反している二次創作を公式に問い合わせてきましたが、大体の場合は無視されて何もアクションがありませんでした。
そういったコンテンツは、結局エロ同人やキャラクター破壊の温床になるばかりで、僕は耐えきれず見切りをつけて作品から距離をおくようになりました。
そうした中で、「本当にクソなのは二次創作する同人作家でなく、そうした二次創作を放置している公式の方だな」と考えるようになりました。
自分の守って欲しいキャラやイメージが守られないとわかりきっているのに、心を痛めたり消耗するなんて馬鹿らしいですし、律儀にファンを続けてやる必要などないんです。

お前らのやっていることは黙認ではなく、ただの責任の放棄だ。

好きな作品が同人イナゴの標的にされて心を痛めてるファンのみなさん。
君たちが愛情を注いでやるほどの価値がその作品に本当にあるんでしょうか。
わざわざ君たちが真面目に憂いたり心を痛めたりしているのは、君たちのせいでも同人作家のせいでもありません。
結局はコンテンツの管理が正しく運営されていないという証拠ですし、君たちが無責任な公式の人間のかわりに律儀に「作品のイメージを守ろう!」と躍起になることなんてないのです。

国もコンテンツも、正しい法律が存在して、それが適切に運用されていなければ、人々は正しい振る舞いをしないのです。
個々人の良心や正義感をあてにしたところで、感情的な私刑を助長するだけです。
「これはいい二次創作でこれは悪い二次創作!」って、オタクが年中もめてる作品、いっぱいあるでしょ。あれのことです。
法律が正しく運用されず治安が崩壊してるから、自警団が警棒を振り回して私刑で殴り合って正義を決めてる無政府状態なだけなんです。

二次創作をファンの獲得のために公式が〝是〟とするとしても、それは二次創作に対して公式がちゃんと向き合う覚悟があってこその話です。
ビジネスのため、ファンの獲得のため、コンテンツの成長のため、二次創作の力を頼るなら、目をそらして自由に任せるのではなく、正面から向かい合って、きちんと管理する覚悟を持ってやってください。
それがなされない限り、僕は心を痛めることになる作品にはこれ以上近づきたいと思いません。

僕はもはや、二次創作で揉めるのがいやだからオタクをやめたようなものです。
安全で穏やかな海外の作品や、視聴者の少ない古い作品ばかり見ているのはこういう理由からだと、今回書いてみて気がつきました。

最後に

たぶん限られた放送枠の中でここまでの内容を喋ることは難しいでしょう。
おそらくここで書いたことの十分の一も、本番では喋れないと思います。

ですが、改めて書いてみたことで、自分が今回の出演で何を喋りたいと思っているのか整理できてよかったです。
そして放送をご覧になったあと、現状の二次創作に対する疑問や引っ掛かりを持った人が、この記事を読んでくれることを願っています。