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電子書籍作家の幾谷正が個人出版の最前線で戦う話

打ち切られた作品を個人で5巻まで書き続けたので、書き続ける理由を振り返る。

こんにちは、幾谷正です。

作家である僕が出版社とトラブったせいで打ち切られてしまった拙作『アーマードール・アライブ』を、電子書籍でセルフパブリッシングとして完結まで出し続けるという活動を、もう5年近くも続けています。

電子書籍の知識も、イラストレーターのアテもない、裸一貫の状態から書き始めて早5年。
いちおう10巻ぐらいで完結させる予定ですが、ようやく折り返し地点となる5巻まで出すことができました。

ただ、最初は勢いと情熱だけで始めたこの活動ですが、最近はなんかもうとにかく厳しいです。
書くこと自体は楽しいんですが、幸いなことに、仕事も趣味も良い感じに楽しいことが多くて、創作に手が回らないという状況です。

また、最初の1巻の段階では1000人以上いた読者も、続けるごとに段々と減っていって結構モチベーションも下がってます。
それにともなって収益も減ってはいるので、副業としてだけやるならもっと利のいい別の仕事に切り替えてもいいタイミングです。
もっともこの辺は、「完結まで出せば離れていった読者が買うから結果的に回復する」という知り合いの作家さんからの助言もあったので、それを支えに続けられてはいます。

とはいえ、続ければ続けるほど書き続ける重みも増えていきますし、反対に僕自身は社会に生きる人間としてやらなきゃいけないことが増えていきます。
そこで今回は、自分に言い聞かせる意味も含めて、「なぜ続けるのか」の理由を一度文字に起こしておきたいと思います。

もし僕と同じように、創作をしていて折れそうになった人がいたら、ぜひ参考にして欲しいですね。

1.何はなくとも読者のため

僕が書き続ける五年の間に、僕が所属していたレーベルから多くの作品が出版されては2巻や3巻で早期打ち切りされていきました。
僕が知る限り、あのレーベルから出た新人の作品の中で、完結まで出版された作品はただの1作もないそうです。

また世の中に目を向けてみれば、雑誌の廃刊とか出版不況とか作家のトラブルとか、色んな事情で作品が完結まで描かれないまま終わっていきます。
作家が死去してしまうことで終わってしまうことすらあります。

そうした打ち切りによって被害に遭うのは、いつでも一方的に作品を奪われる読者たちです。
翻って、今僕がやっている「出版社から出なくなった作品を作家が最後まで自己責任で書いてくれる」って、読者の目線からしてみれば、とても幸運で幸福なことなんじゃないかと思うんですよね。

公式サイトに設置しているお問い合わせフォームやTwitterのリプライから、何度もたくさんの感謝や応援の言葉をいただきましたし、今はそれが原動力です。

1ついただいたメールで面白かったのは、自分より二まわりも三まわりも年上な、ご高齢の読者からお便りをいただいたことです。
「ぜひ完結まで書いて欲しいけど、自分が認知症になってしまうのが心配なので、早く完結させてくださいね」というような内容で、ちょっと笑ってしまいました(笑)

ただ真面目な話、自分の好きな作品を最後まで読めないまま死んでしまうって、とても不幸で口惜しいことだなと僕は思います。
そういう読者のためにも、一刻も早く完結させないとと、筆を進めることができています。

確かに商業出版に比べて読者の数は減りましたが、打ち切られて1万人の読者を不幸にする商業出版より、1000人を確実に幸福にできる個人出版の方が、僕は価値ある活動だと確信しています。

もちろん商業作家としてヒットすれば良い話なんですが、そんなイチかバチかに毎回読者を付き合わせたくはないですし、僕自身そんな保証のないリスクの多い活動で消耗しているわけにもいきません。
そもそも、あれだけ売れた『涼宮ハルヒの憂鬱』だって中断したまま未完結のままで十年以上経ってます。
もし僕が最後まで書き切ることができれば、ハルヒのファンなんかより僕の読者の方が幸福ですし、僕は自分が価値あることをしたと誇れます。

好きな作品が打ち切られるたび、読者はレーベルや出版社に失望し、売れている作品しか買わなくなっていきます。
結果出版社がわも新しい作品を出すことを控えるようになり、市場には似たようなテンプレ作品だけが並ぶことになります。

「たとえファンの数は少なくても自分の好きな作品が出て欲しい」と思ってる読者は居るはずです。
作者として誇れる、読者を幸福にするための出版を、これからも続けて行きたいと思います。

2.自分自身の研鑽のため

このブログでも何度かお話ししていますが、実は最近シナリオライターの学校に通っています。

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で、自分で言うのもなんですが、僕けっこうシナリオ書くのが上手いみたいなんですね。
そりゃそうだ。腐っても元プロなんだから。

そもそも本業の関係でシナリオを書く仕事をすることになって、「思ったより楽しいし向いてるな」と気付いたことがきっかけで始めたんですが、この仕事自体も「ラノベ書いてるんだからシナリオぐらい書けるでしょ」とかるい気持ちで引き受けました。
実際、もし五年前の打ち切りを機に作品を書くことを完全にやめていて、数年ぶりに「書こう」と思ったのなら、正直ここまで手際よく書き進められなかったと思います。
そもそも、自分から「書きます」と言うこともなかったでしょうし、たった数万文字を書ききることすらできなかったでしょう。

この五年間、1冊出す度にだいたい十数万文字をコンスタントに書いては出版してきたわけです。
もちろん単なる文字数でなく、色んな作品や資料を見ながらプロットをひねり、人に相談し、どうしたら描写や展開が良くなるか研究し続けてきました。
プロという職分をやめはしましたが、本を出して人からお金をもらう以上、プロとしての精神を忘れたことは一度たりともありません。

そうした研鑽と努力が、結果的に新しいことへ挑戦するための足がかりになるなら、自分が書き続けてきたことをより肯定できるなと思います。

それにもし、僕が脚本家として成功を収めれば、その影響で今書いている作品が注目されて売れるチャンスだって生まれます。
「シナリオの方が楽しくなって書くのを辞めてしまわないか」と最初は自分でも不安でしたが、今では相互に自分を高めるチャンスだと思ってどちらもやる気が出てしまってかなり大変です(笑)

もちろん、これは逆に言えば「新しいことに挑戦した」からこそ、得られた意義でもあります。
1つの道に行き詰まったとき、あえて別のことを始めてみるのは、決して悪くない判断だと思います。

3.後に続く作家のため

これはまあ、「本気で思っているわけではないものの、いちおうのお題目」として掲げた目標でした。

自分のように打ち切られた作家が「幾谷みたいに電子書籍で出すか」と軽い気持ちで始められるような、先駆者になること。
それが僕がこの活動を最初に始めたとき、社会的に意義あることっぽく見えるようにいちおう掲げてみた目標でした。

ただ結果的にふりかえってみれば、実際に「元プロだけど幾谷さんのやってることを見て自分も電子書籍出しました!」とか、「同人誌を電子書籍化してみました!」とか、そういう報告をこれまでに何度かいただいています。
僕も後に続く人に対して、「分からないことがあったら聞いてね」とか「詳しい人なら知ってるから教えるよ」とか、直接手伝わないまでも情報やマッチングの部分で幾つか助けることはできています。
さすがに「打ち切られた作品を出し直す」というやる気満々な人は、未だに自分以外には見たことがないですが・・・。

ただそういった報告を聞いたとき、本当に正直な本音は「後から始めたくせに俺より売れるなよ~」という、ジェラシーと対抗心でいっぱいです(笑)

とはいえ、そうした「電子書籍作家」とか「同人ラノベ」みたいな人がどんどん増えていって、集まりとして大きくなれば、読者もそうした作品群の存在を知る機会は増えていくと思います。
そうすれば、出版社を介さず同人誌のように印刷費もかからない、第3の選択肢としての電子出版は、これまで以上に存在感を大きくしていくと思います。

残念ながら今後十年ぐらいでそれが達成されるのはちょっと難しいなと思ってますが、そこへ至る種火みたいなものは感じられるところまで来ました。
その先頭の方を走ってる僕が「こんな活動無駄だから辞める!」とひっくり返してしまうわけにもいかないので、そういう意味ではちょっと続ける理由が増えました。

最後に

他にも「なぜ書き続けるのか」という理由はさまざまありますが、現状で言えるのはこんな感じです。

振り返ってみると〝使命感〟だとか〝自己研鑽〟だとか〝他者の幸福のため〟とか、我ながらきれい事ばかり並んでしまいましたね(笑)

ただ、こういう考え方が出来るようになったこと自体が、書き続けてきて良かったなーと思える理由の1つです。

お金とか、評価とか、いいねとか、リツイートとか、そういうものを手に入れるのが目的なら創作なんて別にしなくてもいいんです。
辞めたくなるのが当たり前です。こんなことは続けたところで無駄です。

だからこそ、もっと高いところに続けられる理由を持つ必要は、たぶんあるんじゃないかなと思いました。