Funny-Creative BLOG

電子書籍作家の幾谷正が個人出版の最前線で戦う話

電子書籍の校閲編集作業にGitを利用してみる試み

先日、『アーマードール・アライブ』2巻の発売日を正式に発表させていただきました。

【お知らせ】『アーマードール・アライブ』2巻についてのお知らせ - Funny-Creative


記事内でも記載したとおり、まだ校閲や改稿など、編集作業が山積みを粛々と進めている最中です。
知人に下読みしてもらって矛盾点や改良点を洗い出したり、誤字脱字の山をひたすら切り崩したりと一人では大変な作業続いています。

下読みについては直接epubやテキストを送っても手伝ってもらえるんですが、細かい誤脱の修正やマークアップについては、どうしても口頭でフィードバックして解決しなければいけない状態です。
特に誤脱の指摘については、「○○ページ目の○行目に誤字があったよ」と教えてもらっても、リフローなEPUB形式のため追跡作業に難航してしまいます。

できれば直接原稿ファイルに手を入れて手伝ってもらいたいけど、複数人で1つのファイルをいじるのは難しいです。
と今までは思ってたんですが、業務で1つのコードを集団開発するエンジニアさんたちは、分散型管理システムとかいうのを使ってその問題を解決していると小耳に挟みました。

考えてみれば電子書籍って結局、xmlcssなんだし、「小説」として扱うよりは1つの「言語」として扱った方が自然な気もします。

というわけで今回、編集作業をGitプロジェクトとして行ってみることにしました。

ホスティングについては無料で非公開リポジトリが作成できるBitBucketを選択しました。
公式クライアントのSourceTreeがGUI操作できるので、使い慣れてない方に協力してもらいやすそうなので。

プロジェクトページのキャプチャは、現在こんな感じです。

f:id:funny-creative:20160104030143j:plain

現状、比較的この手の技術に明るい知人に当たってコミットしてもらってる状況です。

“本文の下読み”や“誤脱の指摘”まではお願いできても、“gitでコミットして”となると中々手を上げてくれる人が見つからないわけで・・・。

もしこのエントリーを見てくれている方の中で、面識があり、手伝っていただける方いたら教えてください。
twitterのリプでもブログのコンタクトフォームでも何でも大丈夫です。

実は恥ずかしながら僕自身、自分から始めてみたものの、Gitの扱いについて把握しきれていない部分がけっこう多くて苦戦しています。
「小説のことは自信ないけどGitなら任せろ」みたいな方に手を貸してもらえるとかなり心強いかなという心境。

僕は電子書籍の「紙という実体を持たない出版」という利点を、どこまで活かせるか活動の中で追求してみたいと考えてます。
なので「編集室という実体」もまた、電子化出来たら面白くはないかな、と思って今回実践してみることにしました。
商業活動時代は一応、ゲラとアカを使った校閲作業は経験しているので、それと同じ事を電子的にやってみるというのがまずは第一目標です。

もしかしたら思いも寄らない障害にぶち上がるかもしれませんし、Gitほど高機能でなくても充分なのかもしれません。
SubVersionでも充分じゃないかな、とは既に思ってるところなので)

ちなみにセルフパブリッシングの最大手、群雛文庫さんの方では編集作業にはGoogleドキュメントを採用されてるそうです。

www.gunsu.jp

なんでGoogleドキュメント同じように使わないのかと言うと、せっかく独立してやるからには、人と違うことをやった方が面白いかなと思ってるだけです。
当サークルの活動指針は「たのしいことがしたいだけ」なので。

他にも話聞いてみるところ、みなさん色んなかたちで編集作業のやり方を模索しているみたいです。
マージ失敗して大炎上するか、思いも寄らない福次効果を見つけられるか、まだ分かりませんが、この観測点から見える景色をセルフパブリッシング界隈にお届けできればなあとか考えてます。

(2016.01.06-追記)
さっそくお一人、Twitterで親交ある方から、参加の意思表明いただきました。
まだ3~4人分ぐらい登録枠に空きがあるので、物好きな方お待ちしています。

負けたところで失うものは何もない僕たちと『人造昆虫カブトボーグVxV』の話

世間では「カオスアニメの代名詞」として悪名高い『人造昆虫カブトボーグVxV』だが、実はけっこう趣深いエピソードも多数ある。

そもそもカブトボーグというアニメの世界観はそれほど狂っているわけではない。徹底したリアリティのもとに成り立っている。
主人公のリュウセイさんは腹の立つ相手が居れば叩き潰す、目的のためには手段を選ばない、常に最短距離で勝利をつかみにいく。

これがそこらのホビー向けアニメの主人公なら、「勝つためには何をしたっていいわけじゃない」と敵役を綺麗ごとで説得しているところだ。
だが、リュウセイさんは逆に、そんな説教に対して更に上からの説教を食らわせて怯んだ隙にぶちのめしたりする。
彼は少年向けホビーアニメという枷から解き放たれた、ナマの感情を発露するむき出しの人間性そのものなのだ。

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「君はそのキャラクターの何が好きなの?」

※『蒼穹のファフナーEXODUS』最終回のネタバレあります※

スターシステムについて

突然だけど僕は『君が望む永遠』のキャラだと涼宮茜が好きだ
振り返ってみればわりとよくある「ツンデレキャラ」のテンプレだったわけだけど、同じキャラは古今東西一人として居ない。
彼女には彼女なりの人生があり、思いがあり、心境がある。そういった諸々を総合して好きというわけだ。

しかし、『マブラヴ オルタネイティヴ』に登場する涼宮茜という同姓同名の別人については全く惹かれなかった。
「誰あなた? そっくりさん?」といった心境だ。

ガンダムビルドファイターズ』という作品でも、歴代のガンダム作品キャラがモブキャラとして登場するが、はっきり言ってあれらもアカの他人に過ぎない。
あくまでファン向けのサービスやお遊びであって、「Gガンダムのドモンが出ているからGガンダムのファンは見るべき」とか言われても
「BFの世界観にネオジャパンもガンダムファイトもないんだから、そのキャラはドモンじゃないよね?」ってのが正直な感想である。

転生オチについて

つい先日、『蒼穹のファフナーEXODUS』の最終回を見て、久しぶりにこの疑問がわきあがってきてモヤモヤした。
最終回のオチは簡潔に言うと「メインキャラの1人が居なくなったけど転生して生まれ変わりました」という微妙にハッピーエンドと言い切れない主旨のやつだ。

ちょっと待て。

皆城総士というキャラが好きだった身としてみれば、同姓同名のキャラが出てきただけだ。
目に傷を負っていない、数年にもわたって真壁一騎と微妙な距離感を保ったまま接し続け、仲直りをして、より強い絆で再び結ばれた
そういう「皆城総士の人生」を追っていない、全くの別人がそこに存在しているだけだ。
なので僕はこの結末を死に別れとしか思っていない。

また、この辺りの問題については『蒼穹のファフナー』の1期放映当時、同時期に放映された『神無月の巫女』という作品が比較対象としてあげられる。
こちらは「生まれ変わって2人は次の人生で結ばれました」というオチなのだが、別に本編とは一切無関係な次元の話だ。

そもそも転生モノというジャンルを打ち立てたのは『僕の地球を守って』や原作版『セーラームーン』のような、記憶引き継ぎ型が主流である。
記憶を引き継いでいるからこそ、「2人分の人生を背負った人物」という設定となり、個別に分けられながらも一つのキャラとして舞台上では動くのである。

テンプレヒロインについて

とにかく自分は「ツンデレ」という属性や「容姿」とか「口癖」がキャラクターなのではなく、「人生そのもの」がキャラクターなのだと考えていることがここで分かった。

もちろんこんなの当たり前の話なのだが、どうも世の中のオタク全員が全てこういったレイヤーでキャラを見ているわけでないらしい
例えば色んな作品を横断して、似たような属性のキャラを一律で「このキャラが好き」と言っている人も多く見かける。
キャラクターの容姿さえ好きであれば、送ってきた人生や性格については一切関知しないという人も居る。
中には「声が同じなら」みたいな判定も存在する。はっきり言って彼らが見ているのはキャラではなく、演じている声優なわけだが。

僕が一次創作を自分でおこなうとき、もっとも時間をかけて頭を使っているのが、一人一人の送ってきた人生のディテールだ。
逆に言えば、二次創作というのはこのディテールの作り込みを他人にやらせて自分では行わない、見かけや属性だけの創作だと思っている。

たとえば「生徒会長、良家の生まれ、男嫌い」という三つの要素を組み合わせれば、大体同じようなキャラが出来てしまう。
送ってきた人生がどんなものか、概ね想像に難くないからだ。見かけと声しか差別化する要素が残されていない。

兵器擬人化について

また、兵器擬人化というジャンルにおいてもこの問題は見逃せない重要なファクターだ。
「人間としての人生を送ってきた少女にある日突然兵器としての記憶が刷り込まれた」のか「兵器として生まれた存在が少女の体を与えられた」のか
送ってきた人生が明確に描かれないかぎり、単なる属性を持てあましただけのアイコンだ。
見た目と声以外の何を好きになればいいというのか分からない。

二次創作について

東京の有明では年2回の巨大な同人イベントが開催され、多くのファンたちがキャラクターの二次創作に華を咲かせている。
僕も会場に毎年出向き、様々なファンアートを横目に通りすぎながら会場を練り歩くわけだが、ふと彼らに対して問いかけたくなるときがある。

「君はそのキャラクターの何が好きなの?」

炎上を防ぐために炎上しやすい人の特徴をまとめてみた

あなたの家に燃えるものはありますか?

柱は木ですね。燃える可能性があります。
紙が落ちていますね。これも燃える危険性があります。
コンロがありますね。かなり危険です。

残念ながらあなたの住んでいる家は火事が起きる危険性があります。
燃やせるものがあれば、火事が起こる可能性は常につきまといます。

同様に、ネットで炎上するものというのは、同じぐらい「ありふれたよくあるもの」です。
決して他人事ではありません。あなたが炎上していないのは、単なる偶然の産物です。

というわけで、可燃性のある概念を自分の独断と偏見でまとめてみました。
あくまで僕が知る限り、炎上のきっかけになった、比較的燃えやすい発言の類型です。

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電子書籍が漫画雑誌のシステムを崩壊させる可能性が微レ存

DL販売サイト君クッソ有能

突然だが僕は電子書籍のヘビーユーザーだ。今までの購入金額は6桁をすでに通り越している。
電子書籍で何をそんなに買うものがあるのかというと、実はもっぱら買ってるのは漫画でも小説でもなくエロ漫画である。

毎年コミケに参加している同人誌好きの自分としては、毎日新作が追加されて24時間365日東京へ遠征せず同人誌漁りのできるDL同人サイトの存在は本当にありがたい。
今まではpixivで好きな絵師を見つけても、同人イベントに参加しているか確認して、開催日を調べて、遠征のスケジュールを考えてと大変歯がゆい思いだった。
それが同人DLサイトがあれば絵を見る->プロフィールのリンクを踏む->クレジットカードで購入と数分で済んでしまう。
リビドーのほとばしりを収めるには大変ありがたい即応性だ。

同人DLサイトのステマはこのあたりにして、本題に入りたいと思う。
ずばり結論から言うと、電子書籍の雑誌販売は新人の死に直結するのではないか、という危惧についてだ。

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元ラノベ作家が電子書籍作家の飲み会に参加してきた

設定のおさらいから

 

僕はその昔ラノベ作家としてデビューしたことがある。

そして他のレーベルの新人さんや先輩の作家さんが出席される集まりに何度か顔を出させていただいた。
当時、地元名古屋の大学生で世の中のことがよくわかってなかった僕にとって、東京に出てきて名前を知っている作家さんと同席させてもらえるなんて夢みたいだった。
自分がクリエイターになるための道が拓いたのだと、かなり舞い上がって夢みたいなことばかり語っていた。
 
しかし幾度か出席するうちに、受賞作が打ち切られたり、大手レーベルの受賞者さんとのあまりの刷り部数の差に絶望したりと、夢を見る場所は現実を確認する場所に変わっていった。
「ボカロ小説やネット小説がこれだけ売れるなら新人賞なんて意味ないよね」という後ろ暗い言葉もよく聞くようになった。
 
そして順調に売れていく同期や先輩作家さんを遠巻きに眺めながら、「どうすれば売れるか」と二次会の席で陰鬱に話し合ううちに、やっと気づいた。
ここは自分が上がるべき舞台ではなかったんだなと。
 

夢破れて

 
そして僕は再起をかけた新作が発売二週間で打ち切り決定したことに憤り、怒りの炎で自分の名前に自分で火をつけて燃やした。
飲み会の席でいただいた、あこがれの先輩作家さんたちの名刺も物理的に全て燃やした。
同じ作家であるという信頼をもとに渡されたものだ。その信頼を裏切った以上、持っていていいものではない。
 
だが、商業作家をやめたと言っても創作そのものをやめたわけではない。自由に書くために作家の立場を捨てたのだ。
打ち切られた作品を守るため、僕は電子書籍と呼ばれる世界へ逃れることにした。
その界隈はインディーズとか、セルフパブリッシングとかいろいろな呼び方がある。自分と似たような経歴を持つ人も潜んでいるという噂だ。
実態はまだわからない。そもそも、その実態すらこれから作られようとしている抽象的な世界だ。
分かっていることは一つだけ。彼らは門を叩くものを拒まない。
 
ゲリラ作家活動を始めてしばらくたった頃、電子書籍界隈で名を馳せるあるお方と接触を取ることができた。
なんでもその方は、でんでんコンバーターと呼ばれるアングラ作家製造薬を作り出してセルフパブリッシング界隈を牛耳っているらしい。薬の主成分はphpという噂だ。
電子書籍の三冊目を出してしばらくたった頃、そのお方――ろすさんから、一通の招待状が届いた。
 
「今度東京で飲み会やるけど来たい人いる?」
「あ、行きたいです」
 
そんなこんなで参加してきた。