Funny-Creative BLOG

電子書籍作家の幾谷正が個人出版の最前線で戦う話

元ラノベ作家が電子書籍作家の飲み会に参加してきた

設定のおさらいから

 

僕はその昔ラノベ作家としてデビューしたことがある。

そして他のレーベルの新人さんや先輩の作家さんが出席される集まりに何度か顔を出させていただいた。
当時、地元名古屋の大学生で世の中のことがよくわかってなかった僕にとって、東京に出てきて名前を知っている作家さんと同席させてもらえるなんて夢みたいだった。
自分がクリエイターになるための道が拓いたのだと、かなり舞い上がって夢みたいなことばかり語っていた。
 
しかし幾度か出席するうちに、受賞作が打ち切られたり、大手レーベルの受賞者さんとのあまりの刷り部数の差に絶望したりと、夢を見る場所は現実を確認する場所に変わっていった。
「ボカロ小説やネット小説がこれだけ売れるなら新人賞なんて意味ないよね」という後ろ暗い言葉もよく聞くようになった。
 
そして順調に売れていく同期や先輩作家さんを遠巻きに眺めながら、「どうすれば売れるか」と二次会の席で陰鬱に話し合ううちに、やっと気づいた。
ここは自分が上がるべき舞台ではなかったんだなと。
 

夢破れて

 
そして僕は再起をかけた新作が発売二週間で打ち切り決定したことに憤り、怒りの炎で自分の名前に自分で火をつけて燃やした。
飲み会の席でいただいた、あこがれの先輩作家さんたちの名刺も物理的に全て燃やした。
同じ作家であるという信頼をもとに渡されたものだ。その信頼を裏切った以上、持っていていいものではない。
 
だが、商業作家をやめたと言っても創作そのものをやめたわけではない。自由に書くために作家の立場を捨てたのだ。
打ち切られた作品を守るため、僕は電子書籍と呼ばれる世界へ逃れることにした。
その界隈はインディーズとか、セルフパブリッシングとかいろいろな呼び方がある。自分と似たような経歴を持つ人も潜んでいるという噂だ。
実態はまだわからない。そもそも、その実態すらこれから作られようとしている抽象的な世界だ。
分かっていることは一つだけ。彼らは門を叩くものを拒まない。
 
ゲリラ作家活動を始めてしばらくたった頃、電子書籍界隈で名を馳せるあるお方と接触を取ることができた。
なんでもその方は、でんでんコンバーターと呼ばれるアングラ作家製造薬を作り出してセルフパブリッシング界隈を牛耳っているらしい。薬の主成分はphpという噂だ。
電子書籍の三冊目を出してしばらくたった頃、そのお方――ろすさんから、一通の招待状が届いた。
 
「今度東京で飲み会やるけど来たい人いる?」
「あ、行きたいです」
 
そんなこんなで参加してきた。
 

 

そしてまた現実に

迎えた飲み会当日、会場の近くまで来たとき、なぜかひどい既視感を覚えた。
まるで前世で来たことがある場所のような気がした。
半分合ってた。作家として焼死する前、いつも作家同士の飲み会が開かれてた会場のすぐ近くだった。
街の光景はまるで変わりがなかった。雑踏の騒がしさも、排ガスの匂いも、飲み屋から漂うアルコールの臭気も。
自分はかなり変わってしまった。大学を出て働き始め、地元を離れて東京で暮らし始めていた。
 
会場について宴が始まり、まずは各々の自己紹介が始まった。そして自己紹介を終えたところで終わりの時間となった。
参加者のキャラが濃すぎてキャラ紹介をしている間に尺を使い切ってしまったといった感じだ。
 
色々話したいことはあったが、上手く場に共通する話題を見いだせなかった。
何しろ「作品を書いて発表する」こと自体は作家のときと同じだが、どこから来てどこへ向かうのか皆が違う方向を見ている。
 
自分と同じように出版から背を向けた人、異分野から自分のクリエイティブの芽を植えに来たもの。
新たなアングラ作家製造薬の開発企んでる人とかもいた。
皆色々な背景を持って、電子書籍という舞台に臨んでいる。
 
ただ現状の問題として「どうしたら売れるものを作れるか」は避けて通れない話題だと思った。
皆あまり口にしたがらない様子だったが、僕は幾度となく口にしてきた言葉なので、大した抵抗感なく話題のテーブルにぶち込んだ。
正直、昔は僕もあまり好きではない話題なのだが、今はとても清々しい気分で口にすることができる。
 
だって売れなくて悩んでるのほぼ全員だしね!
 
なんだかとても性格の悪い言い方になってしまったが実際僕は性格が悪い。
いつも言っているが、多くの人に読まれたいだけなら無料でウェブ小説サイトに書けばいいのだ。
有償媒体を使って手間暇を掛けてやる以上、「結果を求めない」という建前は蹴り飛ばすことにしている。
 
商業作家だったときは「どうしてあいつは売れてるのに」とか「誰のせいで売れないのか」とか、そういう自分の力だけではどうしようもない、やる瀬ない気持ちを表現する言葉として口にしていた言葉だ。
セルフパブリッシングは自分で売るからこそ、納得して自分の作品の売り方と向き合うことができる。
まだ成功例が少ない領域だからこそ、自分たちの手で試して挑戦していくことの面白さがある。
今度こそ、自分たちの手で作り上げる自分たちの舞台にしたいなあ、とか心の中で思いつつ隅っこで肉をむさぼり食ってました。
 
当日の詳しい内容とか、他の方の感想が気になったら他の参加者さんが書かれたレポも参照してみてください。