元ラノベ作家だけどシナリオライターの学校に通うことにした#8 『シナリオとは何か?』
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シナリオとは例えるなら「愛」という言葉を使わずに愛を伝えることです。
いきなり結論から入ってしまって恐縮ですが幾谷です。
10月からの3ヶ月間、これまで計10回講座に出席して10本ほど課題のシナリオを作ってきました。
そのなかで、「シナリオという媒体は何を求められているのか」「小説とどんなルールの違いがあるのか」と考えていて、たどり着いたのがこの結論です。
まあ実を言うと3回目の課題をやってるあたりで「あ、そういうことね」って気が付いたんですが。
例として、第3回目の講義で書いた課題のシナリオを例に話をします。
お題は「迷っている人」で、枚数は原稿用紙3枚。タイトルは『忘れちゃった』です。
◯高校の校舎裏(朝)
それぞれフルートを手に持って、階段に腰を下ろす大橋直子(16)と水村萌美(16)。
萌美「ねえ。ナオって、野崎くんと一緒のクラスだよね。よく話したりする?」
尚子「うん。席が隣だから、たまに話すけど」
萌美「野崎くんって、付き合ってる人がいるかどうか聞いたことある?」
尚子「えっ。それはないけど……」
尚子、うつむいて視線を逸らす。
萌美「よかったら、ナオから聞いてみてくれない? 付き合ってる人がいないかどうか」
尚子「……うん。わかった、聞いてみる」
尚子、萌美に作り笑いを向ける。◯高校の教室(朝)
席に座る尚子。教室に入ってきた野崎一郎(16)が尚子に声をかける。
野崎「おはよう、大橋」
尚子「あ、野崎くんおはよう」
席に座る野崎。尚子、野崎の方に体ごと向き直る。
尚子「ねえ。野崎くん、聞きたいことがあるんだけど……」
野崎「何? 大橋」
尚子の方を振り返る野崎。
尚子「……ごめん。何聞こうとしたか、忘れちゃった」
こんな感じのシナリオを書いて出しました。
題材としてはありがちな三角関係ものですが、枚数3枚だとあまり凝った設定にもできないので、これぐらいでちょうどよかったかなと思います。
(原稿用紙に書くとこれでぴったり3枚でした)
いちおうシナリオ養成講座というのは、ドラマとか映画みたいな大衆向け実写作品の映像を基準にして講義が行われているので、自分もそれにしたがって実写ドラマの1シーンという想定で書くようにしています。
たまにアニメとか漫画みたいなシナリオを書いてくる人もいるそうですが、僕としては「今までやってきたことをまたやっても何も身につかない」と思ってるので、あえてオタク向けっぽくはしてない感じですね。
さて、みてわかる通り、このシナリオって「迷った」って言葉は一言も出てきません。というか、出さないように気をつけました。
でも、尚子が「迷った末に聞くのをやめた」という感情の流れは、なんとなく察せられるような作りを目指しました。
尚子が萌美と同じく野崎を好きなことは何となく察せられるし、彼女が友達の頼みと自分の恋ごころの間で悩んでいる・・・という関係性が、自然と伝わった結果、「この主人公は悩んでいるんだな」と視聴者に理解してもらうのがシナリオの仕事なのです。
ここで最初の話に戻るんですが、例えば「愛」を題材に書くなら、「愛」と言う言葉そのものを出さずに愛を伝えるのがシナリオの技術なんですね。
愛の反対にあるもの、愛を支えるもの、愛の犠牲になるもの、愛よりも大切なもの——と、愛を取り巻く色んなものを描いていく。
そうすると、勝手に愛という存在が見る人の中で浮き彫りになっていく。シナリオは映像を使ってそれをどう削り出すかという作業です。
それが「このシナリオというゲームのルールなんだ」と気づいてからは、結構書くのが簡単になりました。
もちろん、自分とは違う別のルールを念頭に置いて書いてる人もいると思いますが、自分なりの結論はこうだという話です。
逆に、これがアニメや漫画だと「えーっ、!」とか「どうしよう! 私だって好きなのに聞けないよ!」とか、ものすごく分かり易く書く傾向があります。
リアルな人間ならぶっちゃけそんな独り言を言ったりするわけないですし、簡単に「好き」という言葉をそうそう出さないものだと思います。
ただ、あえてストレートな感情表現をさせることで誤解や難解になるのを防げますし、展開もテンポよく進められるのも事実なんですね。
〝コミカル〟という言葉がありますが、この〝分かり易くする〟という作業そのものが、〝コミカル〟と呼ばれるものの正体なのだと思います。
自分もどちらかというと、分かり易く表現されたコミカルなアニメや漫画ばかり見てきたタイプの人間なので、そういうものの書き方しか自分の中にないんだなと感じてます。
だからこそ、シナリオを学ぶために色んなドラマや映画を見ていると、芝居や台詞の中にどう情報を入れていくかという技術は、ちゃんと学ばないと身につかないと思うんですね。
特にオタク向けの作品って、最近はソシャゲとかに特に多いんですが、「◯◯くん好き好き!」とか「◯◯様は私のものなんですからね!」とか、とにかく一言で感情が伝わるようにと圧縮されたキャラが主流で、まるで原色でべったりとベタ塗りしたような表現のキャラの描き方しかない印象を受けます。
この「赤色の絵の具を使わないで赤を表現する」みたいな、一見矛盾して見える表現の試行錯誤が、シナリオという作業の面白さだなと個人的に気づくところでした。